デ・キリコ展〜わたしは、謎を愛する
神戸市立博物館
デ・キリコ展が、いよいよ神戸市立博物館でスタート。
9/14(土)初日の夜間開館で、デ・キリコワールドを堪能しました。展示作品はデ・キリコのみです。
ローマのデ・キリコ財団をはじめ世界から来日、作品数は100点以上。
好きな形而上絵画とマヌカンの他に、これもデ・キリコ?という古典的な絵画もあって、特別展ならではの楽しみ方ができる構成です。
展示作品のうち、9点が撮影OKでした(^-^)多くないながらも初期の作品が1913年、最も新しいもので1976年。40年,50年,60年代の作品も写真に収められる配慮がうれしい限り♪
この機会に、過去の旅行で出会ったデ・キリコ作品もあわせて振り返ってみようと思います。
博物館の1階ロビーに展示していた、デ・キリコのポートレート。
17世紀の衣装をまとった公園での自画像(1959)
ギヨーム・アポリネールの肖像(1914年 )(未展示、2015年ポンピドゥーにて)
左手の自画像、17世紀風のタッチで17世紀風の衣装を身に着けた自らを描いています。1910年代に形而上絵画の評価を受けるも、1920年代以降はいろいろな試みがおこなわれ、第二次世界大戦後は古典的な絵画表現が見られるように。
右手は、パリのポンピドゥーセンターに展示していた作品です(特別展では展示していません)。肖像...彫像の間違いでは?実は手前のギリシャ彫刻ではなく、背後のシルエットこそが詩人アポリネールなのです。デ・キリコはギリシャ生まれのイタリア人ということで、古典ギリシャのモチーフがちらほらみられます。
沈黙の像(アリアドネ)(1913)
アリアドネ(1913 )(未展示、2018年メトロポリタンにて)
1910年、デ・キリコはフィレンツェに移りました。そして、サンタ・クローチェ広場にて、ある秋の晴れの午後、見慣れたはずの街の広場が、初めて見ているかのような感覚に陥った脳裏に、絵画の構図が浮かび上がってきた、と語っています。その啓示を受けてうまれたのが「イタリア広場」の一連の作品です。
同時期に描いたアリアドネが、ニューヨーク、メトロポリタン美術館にもありました。そこの解説では「ギリシャ神話によると、テセウスは恋人アリアドネが眠っている間にナクソス島に捨てた」のであり、パリに移って孤独だったデ・キリコにとって「古典的な過去への夢のような逃避(A dreamy escape)であり、デ・キリコがギリシャで過ごした幼少時代の思い出への逃避でもある」とされていました。
フィレンツェには2015年のGWに行きました。サンタ・クローチェ近くのホテルだったので、いろんな時間帯の写真を撮っていましたが、日が長い時期だったり、曇りだったりで「長い影」には遭遇できませんでした(^^;
5月の午後、サンタ・クローチェ教会
5月の夕べ、サンタ・クローチェ広場
特別展「デ・キリコ展」では、表情のないマヌカン(マネキン)を肖像や女神として表現する、形而上絵画が多くみられるのも魅力です。デ・キリコは、出身地であるギリシャの古代文様をモチーフにすることがあるらしく、ギリシャ彫刻もしばしば出てきます。そうであればこの絵画の方々は、マネキンというより、キクラデス文明(BC3000年〜BC2000年頃)のオマージュではないか、と思ったのでした。
予言者(1914-1915)
孤独のハーモニー(1976)
ハープを弾く人とフルート奏者(アテネ国立考古学博物館)
キクラデスの女性像(ルーヴル美術館)
デ・キリコは、自らの作品を複製することがしばしばあります。特別展で展示されていたのは、オリジナル制作から30年以上経った1950年制作の「不安を与えるミューズたち」。ほぼ同じと言っていいほどよく似ています。両者を比べるとのちの方が右奥の像に光が当たっておらず、手前の2人がより強調されている印象があります(撮影できなかったため、1950年の方は 公式サイトにてご覧ください)。
図録によると、中央の坐像の原点は、アテネ国立考古学博物館のアルテミス像にあるとのこと。2006年に訪れた博物館の写真の中に、残念ながらアルテミス像は見当たらず。この作品のマヌカンに近い大理石像をセレクトしました。
不安を与えるミューズたち(1917)(未展示、ピナコテーク・デア・モデルネにて)
ラムヌスのテミス像(BC300年頃)(未展示、2006年アテネ国立考古学博物館にて)
形而上絵画というと、1910年代の作品群がよく知られていますが、以下の作品ははその60年後に書かれた作品です。80歳を過ぎてからの作品とは思えない、ポップに進化しています。
球体とビスケットのある形而上的室内(1971)
孤独のハーモニー(1976)
古代文明で装飾に使われることが多い渦巻き。ギリシャでは、生命の始まりと終わりを表していると解釈されるようです。上の2点ではS字型の渦巻きが配置されていて、無機質な印象のある形而上絵画に、生命の象徴である渦巻きの取り合わせがなんともユニークです
メトロポリタン美術館に展示している古代ギリシャのテラコッタに、渦巻がある壷を2点、見つけました。
アッティカ、BC7世紀の壺(メトロポリタン美術館)
ミケーネ文明、BC1200年頃(メトロポリタン美術館)
形而上絵画のイメージを持っていると、これもデ・キリコの絵なの?と目を疑う作品たち。伝統的な絵画に回帰する時期の作品もたくさん来ています。水浴する女たちの解説によると、ドラクロワやクールベなどの影響を受けているとのこと。表現やタッチをみると確かに、と思いつつ、ルネサンス絵画のような構図や雰囲気もあります。
風景の中で水浴する女たちと赤い布(1945年)
ウルビーノのヴィーナス(1538年、ティツィアーノ、ウフィッツィ美術館)
以下は、ギリシャ神話の英雄オデュッセウスの航海、2つの絵画です。
デ・キリコ展の中でもちょっと違和感に近い不思議さが漂う「オデュッセウスの帰還」。部屋でオールを漕ぎ、人生の航海をする自らを表しています。壁には、幼少期に過ごしたギリシャの風景や若い時に描いた絵画がかかっています。
ウィリアム・ターナーは、航海するオデュッセウスを風景画として描いています。帰還途中に自分を洞窟に閉じ込めた巨人ポリュペモスの目を潰し、船であざ笑うオデュッセウス。光に満ちあふれた景色があります。空の黒い部分は闇ではなく、ポリュペモスを表しています。
同じような題材でも、ここまで表現するものが違うというのが、絵画のおもしろさです?。
オデュッセウスの帰還(1945年)
ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス(1829年、ウィリアム・ターナー、ロンドン・ナショナル・ギャラリー)
最後に「瞑想する人」。脳内がすごくカオスな状況のようであり、妙にごつごつとした手のひらと短い足に、なにか不穏の感情がわいできます。一方、じっと見つめているとしらす丼のようにも...(^^;
会場には彫刻の展示もありましたが、撮影はできませんでした。御堂筋の淀屋橋近く(高麗橋)に、ギリシャ神話をモチーフにしたデ・キリコ彫刻「ヘクテルとアンドロマケ」が屋外展示されており、そちらを掲載しました。立体になっても、世界観そのまま表現できているのがスゴイです。
瞑想する人(1971年)
ヘクテルとアンドロマケ(1829年、御堂筋彫刻ストリート)
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